2021年度各賞受賞者 受賞理由

国際賞(1件) ■柵山雅則賞(2件) ■論文賞(3件) ■Island Arc賞(1件)  
■研究奨励賞(2件) ■学会表彰(1件)      

日本地質学会国際賞


授賞者:Brian Frederick Windley(英国レスター大学地質学科 名誉教授)
対象研究テーマ:地球史を通じたテクトニクスや造山作用に関する一連の研究と日本の地質学発展における貢献


 Brian F. Windley博士は, 長年にわたり野外地質調査を基本として, テクトニクスや地球史分野において多くの研究業績を残した世界的に高名な地質学者である.太古代, 原生代, および顕生代それぞれの地質時代の代表的な地質体について地質調査を行い, 後世に大きな影響を及ぼす研究成果を数多く公表してきた.Windley氏の名を不動のものとした主な理由として, 多数の論文精読から導かれた総説の執筆が挙げられる.例えば, 世界最大規模の中央アジア造山帯の形成テクトニクスに関する総説では, 従来のモデルの問題点を整理した上で, 複数の島弧の識別とそれらの融合で説明する新しいモデルを提唱した(Windley et al., 2007).このようなWindley氏の一連の文献コンパイルの集大成にあたる『The Evolving Continents(1〜3版)』などの教科書執筆においては, 世界中の地質に関する4000編以上の参考文献を引用し, 地球史の全体をわかりやすく提示した.その結果, 世界中の研究者に大きな影響を与え,日本でも地球史研究が始まるきっかけを作った.これまでに公表した論文や著書は400編以上に及び, またそれらの被引用回数総数は25,000回を超える.
 とくに,日本の地質学研究成果の世界への普及に特筆すべき貢献がある.Windley氏は地質学発祥の地である連合王国の出身だが, 日本人研究者が解明した造山運動や付加体の研究に関する新しい視点や独自の技術をいち早く認識し,それらを頻繁に引用することで世界の研究者に日本の地質の重要性を紹介してきた.その結果,陸上に露出した過去の付加体の識別方法, およびそれらが作る一般的な造山帯の内部構造など, 日本発の地質学貢献が世界中の研究者に知られるようになった.
 Windley氏は生来の旺盛な好奇心から, 多くの日本人研究者と積極的に共同研究を行ってきた.これまでに70人以上の日本人研究者と,40編以上の共著論文や著書を発表している.共同研究のため, 訪日は12回に及び, 三波川帯などの日本での地質調査に携わった.また, 地質学会をはじめ国内の学会において共同コンビーナーや招待講演者として参加し, Island Arc誌や地質学雑誌にも複数の論文を公表した.2001年には東京工業大学に1年間滞在し, 多数の大学院生やPDを積極的に指導した.さらに, 連合王国における共同調査や学位研究の指導を通して, 我が国の若手研究者の育成に大いに貢献した.
 以上のような卓抜した国際的研究業績を残し, 日本を含めて世界の地質学の発展に大きな功績を残したWindley氏を, 日本地質学会国際賞に推薦する.

The role of Japanese geology in understanding crustal accretionary evolution and the onset of plate tectonics in the Archean
Dr. Brian F. Windley is a world-renowned geologist, who has made many research achievements in the fields of tectonics and earth history based on field geological surveys for many years. He has conducted geological surveys on many representative Archean, Proterozoic, and Phanerozoic geological bodies, and has published many research results with great impacts. One of most important scientific contributions is publication of many fruitful review articles derived from numerous treatise readings. For example, a review article of the Central Asian Orogenic Belt, which is the world's largest orogenic belt, pointed out the problems of conventional models, and proposed identification of many former island arcs and a formational model of the belt through their collision and amalgamation (Windley et. al., 2007). In addition, his comprehensive compilation and review of many literatures, including more than 4000 references on geology around the world, led to publication of textbooks such as "The Evolving Continents (1st to 3rd editions)". As a result, he had a great influence on researchers all over the world and in Japan. He published more than 400 papers and books so far, and the total number of citations is over 25,000. In particular, there is a remarkable contribution to the dissemination of Japanese geological research results to the world. Dr. Windley is from the United Kingdom, the birthplace of geology, but he was quick to recognize new perspectives and unique technologies related to accretionary geology that Japanese researchers have clarified, and have introduced the importance of Japanese geology to researchers around the world. As a result, researchers all over the world have come to know the geological contributions originating in Japan, such as the methods of identifying past accretionary prisms and their internal structures exposed on land. Dr. Windley has been actively collaborating with many Japanese researchers. He has published more than 40 papers and books with over 70 Japanese researchers. For his joint researches with Japanese researchers, he visited Japan 12 times, and was also involved in geological surveys in Japan such as the Sanbagawa belt. He also participated as a joint convener and invited speaker at some conferences such as the Annual Meeting of the Geological Society of Japan, and published several papers in Island Arc. In 2001, he stayed at Tokyo Institute of Technology for a year, and actively taught many graduate students and PDs. Furthermore, he has greatly contributed to the development of young researchers in Japan through a joint research in the United Kingdom and practical education. We recommend Dr. Windley, who has made outstanding achievements in international research as described above and has made great achievements in the development of geology of Japan and world, for The Geological Society of Japan International Prize.

 

日本地質学会 柵山雅則賞


授賞者:田阪美樹 会員(静岡大学理学部地球科学科)
対象研究テーマ:マントルかんらん岩の物質移動と素過程


 田阪会員は「マントルかんらん岩の物質移動と素過程」を明らかにするため,野外調査と室内実験のアプローチに取り組み,注目すべき成果を挙げてきた. 卒業研究において,三波川変成岩帯中に産する前弧部のマントルウェッジ起源の芋野かんらん岩の構造岩石学的研究を行った.かんらん石において含水変形時に形成される特徴的なすべり系(B-type)を見出した.同様なものの存在はすでに知られていたが,この発見によってその広域的な分布が確認され,地震学的に前弧域で観測される地震波異方性と岩石構造及びマントルにおける流動との関連性を議論する上で重要な情報となった.
 博士課程在籍時には,かんらん石-輝石多結晶体を用いた粒成長・変形実験を行い,鉱物量比−粒径−粘性の関係則を構築した.さらにこの実験結果をオマーン・オフィオライトの歪み集中帯に応用し,天然の歪み集中帯における粒径と粘性率の時間変化を予想した.この研究は,実験の出発物質の合成,精確な力学データの取得のための多くの試行錯誤に加えて解析理論についても吟味を重ね,非常に丁寧に議論している点で秀逸である.
 学位取得後は,アメリカ合衆国ミネソタ大学に留学し,ガス圧式変形試験機を用いてかんらん岩の高温高圧実験を行った.その結果(1)かんらん石中の鉄の多い火星マントルは,鉄が少ない地球マントルよりも柔らかいこと,(2)変形組織が定常状態に達した異方的な試料は等方的な試料に比べて強い粘性率の異方性が発達すること,(3)高歪みのかんらん岩変形において細粒鉱物混合層が形成し歪み弱化が起きること,などを明らかにした.これらの研究は,鉱物のミクロな構造と特性に基づいて,地球内部ダイナミクスを理解するという切り口で岩石の物質移動と素過程を議論している点で独創的である.これらの成果は国際誌に公表され,現在では国内外の共同研究に発展している.国内外の学会でも招待講演を多数行っている.
 2017年2月から島根大学,2019年11月から静岡大学に研究の場を移し,室内実験と野外調査を融合した独自のスタイルで研究を進めている.田阪氏の研究課題の遂行能力は高く,高度な課題に取り組んで新機軸の成果を挙げている.岩石レオロジーの分野をリードする若手研究者として非常に期待している.以上のように高い実績と将来性により田阪美樹会員を日本地質学会柵山賞に推薦する.
 

日本地質学会 柵山雅則賞


授賞者:纐纈佑衣 会員(名古屋大学 大学院環境学研究科)
対象研究テーマ:分光学と地質学のリンク


 纐纈佑衣会員は,ラマン分光学および赤外分光学的手法に関する基礎的な研究とそれらの岩石学をはじめとする地質学分野への適用の両面から,多くの注目すべき成果を公表している.
 主要な成果は以下の3点にまとめられる.(1)従来は変成圧力の定性的な比較に用いられていたラマン石英圧力指標に目盛を入れることに成功し,新たな地質圧力計を提唱した.また,柘榴石包有物の詳細なラマン分光分析により,三波川変成岩からNa輝石,アラゴナイトやパラゴナイトの産出を確認した.それとともに,熱力学的解析により,エクロジャイト相泥質片岩において,パラゴナイトが Na輝石と同様に重要なNa相であることを明らかにした.そして,これらの成果と柘榴石の組成累帯構造を組み合わせることにより,三波川変成帯高温部においてエクロジャイト/非エクロジャイト両ユニットの境界を決定し,泥質片岩や塩基性片岩を含む従来想定されていたよりも広範囲の地域がエクロジャイト相条件下で再結晶していたことを明らかにした.(2)ラマンピークの面積比で表す炭質物の石墨化度を利用した従来のラマン炭質物地質温度計は,その適用可能範囲はおよそ350 ℃以上であった.これに対し,名古屋大学を中心とした研究グループの代表としてピークの半値幅を用いて400 ℃以下の低変成度試料に適用可能なラマン炭質物地質温度計を新たに提唱した.これにより,同温度計を広範囲の変成岩や変形岩などに適用することが可能となった.また,FIB-TEMを用いて,剪断歪みが炭質物の結晶化度に与える研究も行った.そしてこれらの成果を,変成岩のみならず破砕岩,隕石や全球凍結現象に関係したドロマイト岩など多種の試料に適用し,再結晶温度という新しい観点から重要な多くの知見を報告した.それらのうちでも特に,四国三波川帯の広域的温度構造から復元した沈み込み帯の温度構造とそこで進行していた変形運動の復元は注目に値する.(3)沈み込み帯で起こる諸現象に大きな役割を果たすと考えられるようになった蛇紋石族鉱物について,指導学生との協同研究により,全反射赤外分光法の適用に成功した.そして,化学組成とO-H振動バンドとの関係を論じ,これは赤外分光法活用の新たな出発点となった.
 上記の成果を含めて,纐纈会員は基礎的研究およびその応用面に関する多くの研究成果を公表している.そして,今後さらに岩石学を含めた多分野の研究に貢献できることが期待される将来性豊かな若手研究者でもある.これらの点を高く評価し,纐纈佑衣会員を日本地質学会柵山雅則賞に推薦する.

日本地質学会 Island Arc賞


対象論文:Schindlbeck, J. C., Kutterolf, S., Straub, S. M., Andrews, G. D., Wang, K. L., & Mleneck-Vautravers, M. J., 2018, One Million Years tephra record at IODP S ites U 1436 and U 1437: Insights into explosive volcanism from the Japan and Izu arcs. Island Arc, 27: e12244.

Tephra stratigraphy is a fundamental tool in geology, and has long been applied for stratigraphic correlation, chronology, and volcanology. Because of continuous sedimentation and low physical disturbance, tephra layers are often well preserved in deep-sea sediments. Schindlbeck et al. (2018) analyzed the tephra records of two IODP (International Ocean Discovery Program) cores drilled in the Izu-Bonin-Mariana arc in order to assess provenance and eruptive volumes. In total, they identified 260 primary tephra layers from the sediments of the last one million years. Their careful measurements of major and trace element compositions of glass shards specified that 33 marine tephra layers were correlated to the Japan arc and 227 to the Izu arc. Additionally, they correlated eleven tephra layers to major widespread Japanese eruptions; from the 1.05 Ma Shishimuta to the 30 ka Aira. Known ages of these eruptions and refined correlation of the tephra layers established an age model and estimated sedimentation rate of the drilled deep-sea sediment. Furthermore, they calculated the minimum distal tephra volumes of all detected events, and succeeded to evaluate eruption magnitude. For some eruption event, this study evaluated the magnitude for the first time. An extensive database of 260 tephra layers presented in this study is extremely useful to applied for future researches in various fields of Earth Science, and certainly improves our knowledge of the tephra stratigraphy in Japan. Therefore, we identified that the paper by Schindlbeck and others is suitable for Island Arc Award in 2021.

>論文サイトへ(Wiley)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/iar.12244

 

日本地質学会論文賞


対象論文:中澤 努・長 郁夫・坂田健太郎・中里裕臣・本郷美佐緒・納谷友規・野々垣 進・中山俊雄, 2019, 東京都世田谷区,武蔵野台地の地下に分布する世田谷層及び東京層の層序,分布形態と地盤震動特性. 地質学雑誌, 125,367-385.

都市平野部の地盤は,低地は軟弱で台地は良好であるとの認識が一般的であるが,東京都心部の台地の下には世田谷層と呼ばれる軟らかい泥層が局所的に分布している.本論文は,ボーリングコアの堆積相解析,テフラ分析,珪藻・花粉化石分析により,世田谷層が,約14万年前(MIS 6)の低海面期に形成された谷に約13万年前以降(MIS 5e)の海水準上昇期に海が侵入して堆積した谷埋め堆積物であることを明らかにした.特に注目すべきは,世田谷層分布域では,常時微動観測により,台地にもかかわらず木造家屋を倒壊させやすい1 Hzの揺れを増幅させる特性が示されたことである.また,地盤震動の周波数特性を地層物性のみならず層序境界深度や堆積相構成に対応させて議論することで,地震に強いとされていた台地の災害リスクを地層の形成プロセスの観点から明らかにした.今後の都市防災に地質学が果たす道筋を示した本論文を日本地質学会論文賞に推薦する.
>論文サイトへ(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/125/5/125_2019.0001/_article/-char/ja/

 

日本地質学会論文賞


対象論文:中嶋 健,2018,日本海拡大以来の日本列島の堆積盆テクトニクス.地質学雑誌,124,693–722.

本論文は,日本海拡大の早期から拡大後までの日本列島の地史について,堆積盆テクトニクスの観点からまとめたものである.著者は日本海や四国海盆など日本列島周辺の海盆の研究史を振り返りつつ,新生界の代表的分布域の層序,地質構造,化石,年代などの地質学的データを丁寧にレビューし,それらを踏まえて始新世から現在までのテクトニクスと環境変動について詳細に論じている.そして,日本列島の陸域では日本海拡大に伴って多段階のリフティングが生じ,不整合で区切られたリフト堆積盆の発達があったことを示している.250編を超える文献引用に基づくレビューは圧巻で,本論文はこれからの研究者が新生代日本列島の地質学的発達史を学ぶ際のバイブル的位置付けになると考えられる.今後永く読まれると期待されることから,本論文を日本地質学会論文賞に推薦する.
>論文サイトへ(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/124/9/124_2018.0049/_article/-char/ja/

 

日本地質学会論文賞


対象論文:納谷友規・水野清秀,2020,埼玉県加治丘陵に分布する下部更新統仏子層の層序と年代の再検討.地質学雑誌,126,183-204.

本論文は,関東平野西部に分布する下部更新統仏子層の層序と年代を,綿密な野外地質調査とテフラ層の網羅的な記載,そして珪藻化石分析に基づく堆積環境の詳細な復元に基づき再検討し,仏子層の年代観を大幅に更新した.特に注目されるのは,陸成層と浅海成層の繰り返しからなる仏子層について,本論文ではその繰り返しの一部が第四紀初頭の2.5〜2.3 Maの汎世界的氷河性海水準変動を反映した堆積サイクルであることを明らかにした点である.本論文ではその知見に基づき,MISとの対応から仏子層の堆積年代を数万年の精度で決定できることを示した.これらの新知見は,日本最大の平野である関東平野の発達史を,将来的にはより詳細な年代解像度で解明できる可能性を提示している.さらに,仏子層からは陸域や浅海域で堆積した動植物化石が豊富に産出することから,第四紀初頭の陸域や浅海域の生物群集変遷を汎世界的環境変化と結びつけて議論するための層序学的足がかりを示したという点においても,大変インパクトが大きい論文といえる.以上の理由から,本論文を日本地質学会論文賞に推薦する.
>論文サイトへ(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/126/4/126_2020.0005/_article/-char/ja/

 

日本地質学会研究奨励賞


授賞者:板宮裕実 会員(警察庁科学警察研究所)
対象論文:板宮裕実・杉田律子・須貝俊彦, 2020, 石英粒子の形状および表面形態を用いた法科学的検査法の研究. 地質学雑誌,126,411–423.

板宮会員は,実務経験から土に含まれる石英の法地質学的活用に関心を持ち,本研究に着手したものである.石英粒子の表面形態は,英国では法地質学的利用について研究され実務に応用されている.日本では,石英粒子の表面形態に関する研究がほとんどなく,そのため法地質学的利用のための基礎的知見が全くない.本研究は,国内の海岸や河床の堆積物から石英を収集し,丹念に観察と計測を行い,その結果に基づき堆積環境と形態的関係を客観的に解析しようとした画期的な内容である.また,石英という堆積物には普通に見られる鉱物の形態を,堆積環境の解析に有効に活用できるようになれば,古地形や堆積場の復元に新たな手段を導入することも可能となる.被推薦者は,実社会に密接に関わりがあるが,未だに研究者が少ない法地質学の貴重な若手研究者である.本分野の発展のためにも,同人のさらなる活躍が期待される.以上の理由により,本論文の筆頭著者である板宮裕実会員を日本地質学会研究奨励賞に推薦する.
>論文サイトへ(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/126/8/126_2019.0036/_article/-char/ja/

 

日本地質学会研究奨励賞


授賞者:菊地瑛彦 会員(アジア航測株式会社)
対象論文:菊地瑛彦・長谷川健,2020,栃木県北部,余笹川岩屑なだれ堆積物の層序・年代と運搬過程. 地質学雑誌,126, 293-310.
 本論文で筆者らは,栃木県北部の那須火山群から発生した余笹川岩屑なだれ堆積物の層序と堆積年代を明らかにし,その運搬過程について議論している.丁寧な地質調査によって岩屑なだれ堆積物の岩相と層厚の側方変化を調べるとともに,粒度や化学組成の分析も行い,地層対比と年代,及び岩屑なだれ堆積物が長距離運搬された機構について考察している.その結果,本堆積物が少なくとも33万年前以前に発生したことが示され,下流域の茨城県北部・粟河軽石層に対比可能であることも判明した.この対比は本堆積物の流走距離が実に100 km以上に達することを意味する.筆者らは,岩屑なだれが河川を流走中に水に飽和・流動化しラハールに変化したために長距離流走できたという見解を示している.本研究は地域地質の高精度化に寄与することに加え,岩屑なだれ堆積物の運搬・堆積過程という堆積学的問題についても興味深い知見と解釈を示しており,地質学的重要性が高い研究と判断できる.以上の理由により,本論文の筆頭著者である菊地瑛彦会員を日本地質学会研究奨励賞に推薦する.
>論文サイトへ(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/126/6/126_2020.0014/_article/-char/ja/

 

学会表彰


授賞者:千葉セクションGSSP提案チーム*
表彰業績:千葉セクションにおける日本初のGSSP認定

2020年1月,IUGS(国際地質科学連合)は千葉県市原市の「千葉セクション」を中期更新世のGSSP(国際境界模式層断面とポイント)として認定した.さらに,これまで地質年代の名称がなかった中期更新世(約77万4千年前〜約12万9千年前)は「チバニアン期」と名付けられ,日本の地名に由来した地質年代が誕生することとなった.これは言うまでもなく日本の地質学にとって画期的な出来事である.このGSSP認定にいたるまで,総勢35名からなる「千葉セクションGSSP提案チーム」は,過去70年にわたる先人の研究成果をふまえたうえで,前期−中期更新世境界に関する最新かつ高精度の地質情報を,あらゆる研究手法を駆使して解読してきた.特に過去5年間にわたって精力的に公表されてきた地磁気逆転の記録や,年代測定,微化石層序,堆積学,および環境変動に関する研究論文は,地層の連続性や境界の年代決定精度を保証するとともに,3カ所の最終候補の中から千葉セクションのGSSP認定を実現させるための大きな原動力となった.これら一連の研究成果や2017年に始まったGSSP審査の過程は,メディアでも大きく取り上げられ,地質学の一般への普及や,学校教育に大きな影響を与えたことに疑いはない.日本初のGSSP認定と「チバニアン期」の誕生いう快挙のみならず,35名の研究チームが果たした地質学の普及や地学教育への貢献を称え,千葉セクションGSSP提案チームを日本地質学会表彰に推薦する.

*構成メンバー(ABC順) 羽田裕貴(産業技術総合研究所地質調査総合センター),林広樹(島根大学大学院自然科学研究科),本郷美佐緒(有限会社アルプス調査所),堀江憲路(国立極地研究所/総合研究大学院大学極域科学専攻),兵頭政幸(神戸大学内海域環境教育研究センター),五十嵐厚夫(復建調査設計株式会社),入月俊明(島根大学大学院自然科学研究科),石塚治(産業技術総合研究所地質調査総合センター),板木拓也(産業技術総合研究所地質調査総合センター),泉賢太郎(千葉大学教育学部),亀尾浩司(千葉大学大学院理学研究院),川又基人(総合研究大学院大学極域科学専攻),川村賢二(国立極地研究所/総合研究大学院大学極域科学専攻/海洋研究開発機構),木村純一(海洋研究開発機構),小島隆宏(茨城大学理学部),久保田好美(国立科学博物館),熊井久雄(大阪市立大学名誉教授,故人),中里裕臣(農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究部門),西田尚央(東京学芸大学教育学部),荻津達(千葉県環境研究センター),岡田誠(茨城大学理学部),奥田昌明(千葉県立中央博物館),奥野淳一(国立極地研究所/総合研究大学院大学極域科学専攻),里口保文(滋賀県立琵琶湖博物館),仙田量子(九州大学大学院比較社会文化研究院),紫谷築(島根大学大学院総合理工学研究科(研究実施当時))Quentin Simon(Aix-Marseille University(フランス)),末吉哲雄(国立極地研究所),菅沼 悠介(国立極地研究所/総合研究大学院大学極域科学専攻),菅谷真奈美(技研コンサル株式会社),竹下欣宏(信州大学教育学部),竹原真美(国立極地研究所),渡邉正巳(文化財調査コンサルタント株式会社),八武崎寿史(千葉県環境研究センター),吉田剛(千葉県環境研究センター)