2012年度名誉会員

 

大八木規夫 会員(1932年生まれ)


大八木規夫会員は,1958年に広島大学理学部地学科を卒業後,同大学院に進学され,1964年3月に広島大学より理学博士の学位を授与された.同年(1964年)4月に,初代所長の和達清夫さんに強く招かれて,設立間もない科学技術庁国立防災科学技術センター(1991年 に防災科学技術研究所に改組)に入所された.1975年には地表変動防災研究室長,1986年には研究部長を歴任された.1992年3月に防災科学技術研究所を定年退職された後は,財団法人深田地質研究所(現:公益財団法人深田地質研究所)理事に就任された.現在,深田地質研究所と防災科学技術研究所の客員研究員として研究活動を続けられている.
大八木会員は,対策工の検討が中心で,土質力学と安定解析に関する研究に重点が置かれていた時代に,地すべり・斜面災害の研究における地形・地質学研究の重要性にいち早く気付かれ,精力的に研究を推進されてきた.その研究スタイルは,オーソドックスな地質学的方法を基礎に地すべりを理解しようとするもので,地形学・地質学分野出身の地すべり・斜面災害の研究者・技術者に大きな影響を与え地質学の応用分野を拡大してきた.
大八木会員の地質学分野における最大の業績は地すべり構造論の提唱であり,2002年には「地すべり構造の研究」により日本地すべり学会論文賞を授賞している.また,「地すべりに関する地形地質用語委員会」の委員長として,地すべり構造論に関する様々な課題の検討を指導され,その集大成として「地すべり:地形地質的認識と用語」(日本地すべり学会発行,2004年)に纏め上げられた.本書は斜面防災を扱う地質技術者・防災研究者の必携の書となっている.また,大八木会員が始められた「50,000分の1地すべり地形分布図」(防災科学技術研究所)の企画と刊行の事業は,その後30年以上にわたって継続され,あと数年で全国が完成予定である.そして,地すべり構造論の立場から多数の地すべり地形判読の実例に基づいて要点を取り纏めた著書「地すべり地形の判読法」を2007年に刊行された.
大八木会員は,研究を進めるにあたって,地盤工学など工学分野の研究者や実務技術者とも幅広く交流を深められ,実務技術者への自然災害の理解とその防止における地質学分野からの貢献にも尽力されてきた.そして,研究で得られた知識・経験の伝承にも尽力され,若手技術者の研修指導や学生の指導にも積極的に取り組んでこられた.
以上の功績により,長年にわたって地質学をとおして社会に貢献されてきた大八木規夫会員を日本地質学会の名誉会員に推薦する.

 

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蟹澤聰史 会員(1936年生まれ)


蟹澤聰史会員は1955年に長野県立伊那北高等学校を卒業後,東北大学理学部地学科に入学,1959年卒業後同大学院修士課程に進学され,1964年に博士課程を修了,理学博士の学位を得授与された.同年東北大学教養部助手に採用され,後年助教授,教授に昇任された.1993年から理学部・理学研究科教授を務め,2000年に停年退官された.その後は山形大学理学部教授を務め,2002年に停年退官後も数年間にわたり東北大学,山形大学で講師を務められた.
蟹澤会員は,学生時代の長野県高遠地方の領家帯変成岩・深成岩についての岩鉱論文,南部北上山地の変成岩に関する紀要論文(学位論文)を始めとして,主に東北地方の変成岩や火成岩に関する多数の研究論文を公表され,日本列島の基盤地質の解明に多大な貢献をされてきた.特に先シルル紀基盤岩や白亜紀花崗岩の研究,東北地方の火成活動史の総括などで顕著な業績を挙げられた.なかでも,異なる系列の花崗岩における鉱物化学組成の違いについての論文、花崗岩中のフッ素の挙動に関する論文、北上山地のアダカイト質花崗岩についての論文、北上山地の構造発達史に関する論文、そして中国やエジプトの花崗岩に関する論文などは国際誌に公表され、よく引用されている.さらに,国際地質対比計画IGCP-315「ラパキビ花崗岩と関連岩石」の日本代表,万国地質学会議IGC京都大会(1992)の「花崗岩の時間的空間的比較研究」コンビーナー,IGC北京大会(1996)の「大陸プレート内と受動的大陸縁のマグマ活動」コンビーナーなども務められた.また,仙台付近の火山灰層の研究により安達火山を発見されたことや旧石器時代遺跡の年代決定に貢献されたことも特筆される.
一方,蟹澤会員は「現代の地球科学ー基礎編」などの教科書や「文学を旅する地質学」,「石と人間の歴史」などの普及書を出版され,地学の教育と普及に貢献されてきた.理系・文系の幅広い分野にわたる深い教養と多年の教育経験に裏打ちされたこれらの優れた普及書は,今後も多くの読者に読み継がれて行くに違いない.
蟹澤会員は,学会や社会においても,日本岩石鉱物鉱床学会(現鉱物科学会)会長,日本学術会議の地質学研究連絡委員会委員,金属工業事業団の調査委員,国際協力事業団の派遣専門家,大学入試センター委員,宮城県自然環境保全審議会委員を務めるなど各方面で活躍し,東北大学でも評議員を2期務めるなど要職を歴任された.
このような長年にわたる地質学の研究,教育,普及への顕著な貢献に鑑み,蟹澤聰史会員を日本地質学会名誉会員に推薦する.

 

(以上2名)