イギリスでは、大学の地質学教室の多くは、年度が切り替わる10月に学部生巡検をおこないます。今回、オックスフォード大学のSteve Hessalbo教授、Hugh Jenkyns博士の御好意で、オックスフォード大学の巡検に同行させてもらいました。オックスフォード大学では、例年イングランド南海岸、Weymouthの東西約30 kmに広がるジュラシックコーストを1週間かけて巡検します。ここでは、三畳紀の河川性・湖沼性堆積物、ジュラ紀の浅海堆積物、白亜紀のチョークなど、さまざまな堆積物を見ることができます。参加する学生は新2年生、ほとんどが10代の若人で、元気いっぱいです。
写真1.Lulworthの褶曲露頭をスケッチする学生。 |
巡検は、まずLulworthの褶曲露頭での地質スケッチから始まります(写真1)。スケッチを皆で廻し読みし、他の人たちがどのようなスケッチを描いているのか、どこにポイントを置いて描けばいいのかを学びます。その後、古い三畳系から若い白亜系まで年代を追って観察していきます。その間、学生は露頭の観察方法、柱状図の描き方、走向傾斜の測定、上下判定などを学びます。海岸露頭はどこも素晴らしく、さまざまな堆積構造や豊富な化石を見ることができます。圧巻はLyme Regis近くの波食台です(写真2)。層理面が露出し、一面にアンモナイトが!ここではアンモナイトの詳細な観察や、サイズの測定をおこないます。なお、露頭から許可なくアンモナイトを採取することはできません。今回の巡検では、化石を多産する露頭の一つが、冬の間の嵐のため礫に覆われてしまうという不運がありました(4コマまんがのネタ)。しかし、Lyme Regis 周辺には、アンモナイトやベレムナイトを多産する露頭が続きます。運が良ければ、アラゴナイトの殻がそのまま残っているアンモナイトが見つかることも!
写真2.Lyme Regis 近くの露頭。層理面には大量のアンモナイト化石が。 |
学生はみんな好奇心旺盛で、露頭を前に議論が絶えません。引率の講師陣にはどんどん質問し、とても活気がありました。夜は講師陣の講義があり、一日のレビューをします。その後学生は幾つかのグループに分かれ、巡検に関連したテーマ(生痕化石、Sr同位体層序、テクトニクスと石油など)についてディスカッションし、皆の前で発表します。学生が書いた野帳は、毎晩講師陣がチェックします。講師陣も学生も休む暇はありません。私も数名の学生の野帳をチェックしましたが、実によく書けていました。スケッチや柱状図は日に日に上達し、露頭での説明や講義もしっかりメモを取っていて、驚かされました。最終日には途中で立ち寄った古城跡でなぜか学生対講師陣の鬼ごっこが始まり、みんな子供のようにはしゃいでいました。最終日の夜は講義もほどほどに、近所のパブで大宴会。オックスフォード大学の巡検は、よく歩き、よく観察し、よく議論し、よく学ぶ。それに加えてよく遊び、よく飲む、というのが伝統のようです。