◇各地の天然記念物◇
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日本全国天然記念物めぐり(秋田県編)

秋田県には現在,国指定の天然記念物が7つある.

(1)玉川温泉の北投石(1922年指定,特別),仙北市玉川温泉
(2)じ状(魚卵状)珪石および噴泉塔(1924年指定),湯沢市雄勝
(3)象潟(1934年指定),にかほ市象潟
(4)筑紫森岩脈(1938年指定),秋田市河辺
(5)千屋断層(1995年指定),美郷町
(6)鳥海山獅子ヶ鼻湿原植物群落及び新山溶岩流未端崖と湧水群(2001年指定),にかほ市象潟
(7)男鹿目潟火山群一ノ目潟(2007年指定),男鹿市
 

2008 年の地質学会秋田大会の巡検案内を秋田大学工学資源学部の西川 治氏と行うことになり,その巡検地の下見と打ち合わせを行うため,ゴールデンウィーク(5 月1日〜3日)に秋田に出張した.その時,西川氏と2ヶ所(+1)の天然記念物をめぐったので,ここに報告する.実際に現地を訪れたのは,千屋断層と筑紫森岩脈の2ヶ所であり,玉川温泉の北投石は展示資料を観察しただけである.千屋断層と筑紫森岩脈は,両者とも20万分の1地形図に記載されており(市販の道路マップでは確認していない),現地までは西川氏に案内して頂いたのでスムーズに行くことができたが,いつものように幹線道路に案内標識が出ているわけではないので,一般の方は迷うかもしれない.
 

玉川温泉の北投石

図1)秋田大学工学資源学部鉱業博物館所蔵の北投石.左が台湾北投温泉のもので,右が玉川温泉のもの.*クリックすると大きな画像がご覧頂けます
 

北投石は温泉沈殿性重晶石のことであり,1922年に天然記念物に指定され,その後(1952年)に特別天然記念物となった.西川氏によると,玉川温泉に行っても北投石が大規模に沈殿しているところは見ることができないとのことだったので,氏の所属する鉱業博物館所蔵の展示資料を見せて頂いた.博物館にはその名称の由来となった,台湾台北市の北投温泉の重晶石も展示してあった(図1).なお,西川氏によれば,玉川温泉の温泉水には,電子顕微鏡スケールの重晶石が含まれているとのことであった.


千屋断層

千屋断層は横手盆地東縁断層帯の一部であり,1896年の陸羽地震の際に出現したものである.1984年に県指定の天然記念物となり,その後(1995 年)に国指定の天然記念物となった.国指定の露頭は,東大地震研究所などによる活断層調査(1982年)のトレンチ露頭であり,現在は保存のため土嚢が敷き詰められていた(図2左上).露頭自体の観察は出来ないが,詳細な露頭スケッチ(図2右上)と説明文が展示されていた(図2左下).西川氏によると,この露頭は美郷町による保存観察施設設置に向けて協議が行なわれているため,現状維持のため土嚢が積まれているとのことであった(図2右下).この説明板にあるように,教育委員会または千畑交流センターに行くと,千畑断層観察ロードマップを入手する事ができる.     
       

   
図2)国指定のトレンチ露頭(左上)とそのスケッチ(右上).旧千畑町教育委員会による説明板(左下).右下は,千畑断層保存観察施設設置のため,トレンチ露頭を保存する目的で土嚢が積まれ,現在は観察できないことを告げる説明板(美郷町教育委員会).*クリックすると大きな画像がご覧頂けます
 

    このトレンチ露頭の北の赤倉川の河岸にも断層露頭があり(図3),町の教育委員会の説明板がある.こちらの露頭も国指定の断層露頭であるらしい(ただし,石碑等はない).遠目ではよくわからないが,図の点線の位置に東傾斜の衝上断層がありそうである.また,千屋断層は直線的な高さ1mほどの断層崖をともなっており,その断層崖に沿って何箇所か,陸羽地震に関連した説明板が立っている(図4).これらの説明板は,千畑断層観察ロードマップに記載されている.     
       

 
 
図3)赤倉川河岸露頭(左)とその説明板(右).明瞭な断層崖が形成されている.*クリックすると大きな画像がご覧頂けます
 
図4)陸羽地震に関連した地震被害を伝える説明板.先述の千畑断層観察ロードマップにその位置が記載されている.
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筑紫森岩脈

筑紫森岩脈は,第三紀中新世の黒雲母流紋岩による溶岩円頂丘である.遠景で岩尖の様子が観察できるほか,ハイキングコースも整備されているので,山頂まで約30分ほどで行くことができる(図5).途中までは,普通のハイキングコースであるが,天然記念物の説明板(図6左上)からは,横臥柱状節理の発達した流紋岩の岩場となっている(図6右上).往復1時間のコースであるが,最近はやりの俗っぽい名前の症候群の方には辛いかもしれない.

 
図5)秋田市教育委員会による筑紫森への案内板(左上・右上),右上の案内図は山頂までのハイキングコースと途中の見せ場が記載されている.筑紫森岩脈の遠景(左下),溶岩円頂丘がはっきり確認できる.今回は表参道を行った(右下).*クリックすると大きな画像がご覧頂けます
図6)天然記念物の案内板(左上).この地点から横臥柱状節理の発達した流紋岩の岩場が続く(右上).山頂付近は,節理がほぼ水平に発達し,さながら階段のようである(左下).筑紫森山頂の筑紫森神社(推定,右下),神社には天然記念物としての解説文が掲げられている.*クリックすると大きな画像がご覧頂けます
 

今回は,時間の都合上,2ヶ所(+1)しかめぐれなかったが,後は西川氏が取材してくれるとのことであったので,それに期待して今回は簡単に紹介するにとどめた.